
LAQUE 10th anniversary
My Tracks /田丸みゆき
京都を舞台に活躍する女性たちの軌跡 (Tracks)
そしてこれから

京都の街を素敵に活きる女性にフォーカスする "My Tracks"。今回は京菓子の老舗(創業1716年)「笹屋伊織」の十代目女将である田丸みゆきさんの軌跡とこれからについて話をうかがい、ラクエ2階のアパレルショップ「マーノ 」を編集部と訪問します。
今いる場所で一生懸命に生きる
「実は、あがり症で⼈⾒知りなんです」 そう⾔うと、「冗談でしょう」と笑われますが、本当にそう。 ⼦どものころから、そんな⾃分がずっと情けなくて ⼈前で堂々と話せるようになりたいと思いながらも いつも逃げてばかりいました。
ご縁があって、京菓⼦の⽼舗に嫁ぎました。 ⼤阪⽣まれ⼤阪育ち、教師の娘として育った私にとって和菓⼦屋の仕事は新鮮で楽しく、京都の暮らしや⽂化も それはそれは魅⼒あふれるものでした。 初めて⼤きな講演会の依頼を受けたのは17年ほど前。 当⽇は緊張のあまりマイクを持つ⼿が震え、声が出ず頭が真っ⽩になり とても申し訳なく恥ずかしい思いをしました。
それ以降は、また逃げたい思いでいっぱいでしたが、 和菓⼦のすばらしさや私の経験してきたことを伝えたいという思いの⽅が強く ご依頼は全てお引き受けし、⾃⾝でもセミナーの開催を15年間、毎⽉続けてきました。 経験を積み重ね、コツコツと継続してきたおかげで、近年では、年間90回ほどのセミナーや講演、全国ネットのテレビ番組でコメンテーター、ラジオ出演などのお話をいただくようになり、多くの⽅々の前でお話をさせていただいています。 よく、「この先は何を⽬指していますか」という質問を受けますが、 あまりピンとこないんですよね。
私はただ、今いる場所で⼀⽣懸命に⽣きる。仕事もお付き合いも⼤切に。 その結果、10年先、20年先、どこに導かれるのか、私⾃⾝が楽しみにしているんです。
(⽂:⽥丸みゆき)
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<インタビュー>
編集部:証券会社勤務、中学校の講師を経て京菓⼦の⽼舗に嫁ぐことになった時、何か意識されたことはありましたか。
⽥丸さん:最初は⾃分の居場所探しから始まりました。⼤阪出⾝なので京都には馴染みがなく、もともと⽢いものはあまり⾷べないので和菓⼦についての知識はほとんどないという状況でした。ですが、とにかく役に⽴ちたいという思いがありました。まずはお店に⽴ち、接客や商品の包装、配達など⾃分のできるところから始めて⾏きました。そうしているうちに、どんどん和菓⼦の世界にのめり込んで⾏きました。
夫とは恋愛結婚で、最初は少しでも近くにいたいという気持ちがありましたが、今は夫より和菓⼦の⽅が好きなくらいです(笑)。
編集部:現在では講演会や本の出版、テレビ番組のコメンテーターなど、伝えることについて活躍の幅を広げていらっしゃいますが、そのきっかけは何でしたか?
⽥丸さん:修学旅⾏⽣への勉強会です。修学旅⾏といえば昔は団体で⾏動することが多かったのですが、最近は5⼈くらいのグループに分かれて各所で学ぶ時間があるんですね。お問い合わせをいただく度に、対応できる余裕がなく残念ながらお断りしていたのですが、それならば私が!と思いまして、引き受けることにしました。結婚するまでは中学の講師をしていたので懐かしさもあり、とても嬉しく感じました。実際スタートしてみると、学⽣さんから様々な質問をいただき、私は分からないことだらけ。その度に義⽗⺟や夫、職⼈さんたちに教えていただきました。そんな中で、私⾃⾝が感じた和菓⼦のびっくり話などを学⽣さんにすると楽しんでもらえ、興味を持ってもらえるんですね。⾃分⾃⾝で体験した話が⼀番伝わると感じました。それが徐々に評判となり、現在に⾄っています。
編集部:京菓⼦の⽼舗で初めて「⼥将」と名乗られたそうですね。
⽥丸さん:はい。笹屋伊織での経験から知ったことはどこにも書かれていませんし、伝えていかなければならないと思ったので、それまで京菓⼦の⽼舗では使われていなかった「⼥将」を⾃ら名乗り実⾏してきました。2003年に京菓⼦の⽼舗としてはまだ珍しいホームページ⽴ち上げた時には、「⼥将の部屋」というコーナーを設けてもらいブログを書き始めました。そして、2013年からは京都・滋賀の⽉刊誌『Leaf』に「京おんなの流儀」というページを持たせていただき、8年に渡って20〜40代のOLやヤングミセスにメッセージを送っています。そして2016年には東京の出版社からお声がかかり、「愛される所作」の出版にもつながったのですが、それは和菓⼦やお店の紹介ではなく、⽇々の接客やお付き合いなど、私の成功や失敗の経験を通じて気付いた所作についての本でした。

編集部:コラムの冒頭では「あがり症で⼈⾒知り」と書かれていますが、その克服⽅法は何でしょうか。
⽥丸さん:とにかく何でも引き受け、逃げないことです。あがり症を克服するために昔からアルバイトも⼈前で話すものを選んだりしてきました。結婚式の挨拶などもよく依頼されるのですが、断らないようにしています。それでもいつも緊張しますね。緊張で⼿が震えてしまうので、ハンドマイクはない⽅が好きです(笑)。こんな⾵に、常にチャレンジを続けていくようにしています。
編集部:いつも⽬の前にあるものに対して全⼒で取り組まれているのですね。
⽥丸さん:先については、⼤それたことは考えていません。世の中⾃分の思い通りに行かないことばかりなので、夢を⾒ることはやめました(笑)。⽬の前のことに⼀⽣懸命応えていると、本の出版もテレビのコメンテーターも、想像していなかったご縁に⾃然と導かれていったので、これからの未来もどんなご縁があるか楽しみですね。⼦供の頃はスチュワーデス、証券会社勤務の頃はビジネスマナーの講師、ツアーコンダクターや学校の先⽣にデザイナー、⼩説家など、なりたいものは沢⼭ありましたが、京菓⼦の⽼舗の⼥将になりたいと思ったことはありませんでした。ですが今、不思議なことにそれらを⼥将の仕事を通じて実現できていると感じます。
編集部:これまでとは違う新しい⽅法で京菓⼦や和菓⼦の世界を広めていらっしゃる⽥丸さんですが、残していくべきこと、逆に変わっていくとよいのではないかと思われることはありますか。
⽥丸さん:残していくべきことは、それぞれのお菓⼦に込められた「想い」です。例えば柏餅の由来について調べると、⼦どもの健康や⼦孫繁栄を願った昔の⼈の「想い」を知ることができます。なぜ⽇本⼈がこれを⾷べるのかを学校では教わりませんので、伝えることは和菓⼦屋の役⽬であると考えています。
変わっていくとよい部分について、笹屋伊織もカフェ業態などの新しいことには取り組んでいますが、和菓⼦⾃体に変化は必要ないと思っています。
今は⼈間も「個」がもてはやされる時代で、個包装化された⾷品が増え便利になっていますが、私は上等なお菓⼦である⽺羹なら「ちょっとお茶にしましょうか。」と⾔って、1棹をみんなで切り分けていただく時間を⼤切にしていきたいと思います。


写真は笹屋伊織のどら焼。江⼾末期に作られ、現在は毎⽉20・21・22⽇の3⽇間しか販売されない幻と呼ばれるどら焼。⽵の⽪ごと切って⾷べることができます。


イオリカフェのスイーツ。だるまさんの⼩倉パフェとコーヒーのセットと季節のパフェ。お盆に置かれた季節ごとの短冊にも、おもてなしのこだわりがあります。(取材スタッフ撮影時、2021年12⽉)
***おかげさまで創業305年***
田丸みゆき × マーノ
ラクエ2階のアパレルショップ「マーノ」を訪問。ストアマネージャーからお店について紹介していただきます。
⽥丸さん:お店のブランド名「マーノ」はどのような意味が込められているのでしょうか。あたたかい響きがありますね。

注)撮影時のみマスクを外しています。
ストアマネージャー:「マーノ(MANO)」とはイタリア語で「⼿」の意味があります。⼿のぬくもりを感じていただけるような「ひと⼿間かけて作られたデザインやディティールに凝ったアイテム」を取り揃えています。こちらの店舗は、ラクエ開業と同じ 2010 年にオープンし、時代の流れとともに品揃えを変えています。現在はイタリアをメインにヨーロッパのブランドのものを多く扱っています。

⽥丸さん:明るい⾊のお洋服も多いですし、ここにいるだけで元気になりますね。
ストアマネージャー:ディスプレイのコンセプトは「宝物探し」です。雑貨も含め、⾊んな場所に⾊んなアイテムを散りばめています。お客様には「こんなものも、あんなものもある!」と、店内を楽しんでいただきたいと考えています。
ところで、⽥丸さんは普段はどんな洋服を着られていますか。
⽥丸さん:普段は着物を着ることが多く、洋服の場合も、キチッとしたスタイルのものを選ぶようにしています。あとは⾃宅でくつろぐための部屋着なので、カジュアルな洋服を着る機会がなかなかありません。
今⽇は私に似合うものを何か選んでいただけますか?
ストアマネージャー:かしこまりました。今⽇のお召し物ですと、洋服の⾊と同じ⿊い帽⼦を被っていただくだけでもカッコいい雰囲気になりますよ。

ストアマネージャー:とてもお似合いですね。
先ほどの上品なイメージとガラリと変わられて、帽子をスタイリングに取り入れただけで大変身されましたね。コーディネートをするのもワクワク楽しくなります。

⽥丸さん:ありがとうございます。お帽⼦を被ることはないので新鮮です。お帽子もコーディネートに取り入れてみようかしら。
他のコーディネートもご提案いただけますか?
ストアマネージャー:明るい⽔⾊のコートはいかがでしょう。

※帽子は取材スタッフ私物
⽥丸さん:寒い冬でもこういった⾊の洋服を着ると、顔まわりも華やかになって気分が上がりそうですね。
ストアマネージャー:こちらの鮮やかな紫⾊のコートもお似合いになりそうです。最近流行しているゆったりとしたシルエットのもので、スリーシーズン着ていただくことができます。


ストアマネージャー:コートの下のトップスはヨージヤマモトの元パタンナーが⽴ち上げたウジョーのニット、ボトムスにはマーノのオリジナルブランド、マルコアンドルイーズのニットスカートを合わせます。ザネラートというブランドのポスティーナは、1950 年代のイタリアで郵便配達員が使っていたショルダーバッグをベースにしたデザインで⼈気のあるバッグです。持ち手にスカーフを結んでエレガントさを出します。

⽥丸さん:ご提案いただいたトータルコーディネートに着替えてみました!普段とは違う⾃分になれたようで楽しいです。
店内には雑貨も置かれているということですが、おすすめは何でしょうか。
ストアマネージャー:イタリア・フィレンツェ発のルームフレグランスのブランドであるドットール・ヴラニエスの、⾚ワインの⾹りがするハンドクリームはとても⼈気があります。


トアマネージャー:こちらはイギリスのスコティッシュファインソープの⽯鹸です。パッケージのデザインがかわいいです。
⽥丸さん:どちらもプレゼントにすると喜ばれそうですね。
ストアマネージャー:はい。プレゼントや⾃分へのご褒美として購⼊される⽅が多いですね。
他にご紹介したいものは、オリジナルブランドの商品です。同じフロアに2022年2月28日※まで、コーナーを設けております。地球に優しい、リサイクルできる素材を使⽤したダウンやカットソーを展開していますので、ぜひ⼿に取っていただきたいです。※期間は延長する可能性があります。

⽥丸さん:新素材を使われるなど、新しいことにも積極的に取り組まれているのですね。
こちらのお店にはどのようなお客様がよくいらっしゃいますか。
ストアマネージャー:40-50代の⼥性がメインですが、メンズ商品の取り扱いもありますので、ご夫婦や20-80代など幅広くお越しいただいております。最近は、普段は百貨店によくいらっしゃるお客様が「こんなお店があったのね。」とお⾒えになる機会が増えました。
品がありながら遊び⼼を合わせ持つ、他と少し違うデザインをお探しの⽅にぜひお越しいただきたいですね。
<⽥丸さんが着⽤したアイテム>


コート roberto collina/ 85,800円(税込)
ニット UJOH/ 49,500円(税込)
スカート Marco&Louise/ 15,400円(税込)
帽⼦ tesi/ 24,000円(税込)
カバン ZANELATTO ポスティーナ/ 110,000円(税込)
スカーフ altea/ 26,400円(税込)
※商品の在庫に関しては直接マーノまでお問い合わせ下さい。
田丸さんに紹介していただいたお店


マーノ
MANO(マーノ)とは、とは、イタリア語で“⼿”の名が⽰すとおり、ひと⼿間のこだわりと⼿のぬくもりを感じさせるファッションを提案します。
フロア:2F
業種:メンズ・レディス
TEL :075-257-7475
営業時間:10:30 〜 20:30
URL http://www.mano-select.com
ラクエショップページ http://laque.jp/shops/mano.html
田丸みゆき(たまるみゆき)

京菓匠 笹屋伊織 取締役十代目女将 株式会社イオリ・コーポレーション 取締役社長
帝塚山学院短期大学英文学科卒業後、野村證券株式会社に入社。 その後、中学校の講師を経て京菓子の老舗(創業1716年)「笹屋伊織」の十代目に嫁ぐ。 経営や社員教育、イオリカフェのプロデュースに携わる。
その傍ら女将として培った経験を活かした、各種団体・企業・教育機関への、京菓子文化、おもてなし、和のセミナーなどの研修・講演が好評。年間80本を超える。
笹屋伊織:https://www.sasayaiori.com/